2026年08月07日

制作ノウハウ

ホームページリニューアルの稟議書|通る書き方とテンプレート

ホームページリニューアルの稟議書|通る書き方とテンプレート

ホームページリニューアルの稟議書が差し戻される原因は、金額の大きさではなく「なぜその金額なのか」が書かれていないことです。決裁者は相場を知りません。判断できるのは、現状の損失・やること/やらないことの線引き・公開後にどう測るかの3点だけです。この記事はその3点を埋めるための雛形と、実際の書き換え例を載せます。

稟議書が落ちる理由は「いくら」ではなく「なぜその額か」

差し戻しの多くは、金額そのものではなく比較材料の不在で起きます。決裁者にとって300万円のリニューアルは「300万円の何か」でしかなく、高いか安いかを判断する軸がありません。軸を用意するのは起案者の仕事です。

決裁の場で必ず出る質問は、経験上この3つに収束します。

1. 今のままだと何が困るのか(=やらない場合のコスト)
2. その300万円は何に使うのか(=スコープ)
3. 効果はどう分かるのか(=公開後の測り方)

このうち1番が最も飛ばされます。「古いから」「スマホ対応していないから」は現象であって損失ではありません。損失に翻訳すると、たとえば次のようになります。

  • 採用: 応募者が会社概要ページで離脱している → 媒体費を年◯万円払っているのに応募単価が下がらない
  • 営業: 問い合わせフォームの入力項目が12個あり、着手率に対して完了率が◯% → 月◯件の機会損失
  • 運用: 更新のたびに制作会社へ依頼し1件あたり◯円・◯営業日 → 年間◯万円と、出したい時に出せない機会損失

持ち帰り: 稟議書を書き始める前に、Google Analytics か Search Console を開いて「離脱の多いページ」「フォームの到達数」を1つだけ数字で押さえてください。数字が1つあるだけで、稟議書は「要望書」から「投資判断の材料」に変わります。数字が取れない(=計測が入っていない)なら、それ自体が現状の問題として書けます

決裁者が見る6項目(コピペできる雛形)

稟議書の様式は会社ごとに違いますが、決裁者が探している情報は6つです。自社の様式に、この6項目が入っているかだけ確認してください。

以下はそのままコピーして使える雛形です。◯の部分を自社の数字に置き換えます。

件名:コーポレートサイトリニューアルの件

1. 背景・現状の課題
   現サイトは20◯◯年公開で、以下の実測値を確認している。
   ・スマートフォン経由の流入が全体の◯%を占めるが、モバイルでの直帰率は◯%
   ・採用ページの平均滞在時間◯秒(応募フォーム到達率◯%)
   ・更新は外部委託で、1件あたり◯円/◯営業日を要している

2. 目的(本件で達成したいこと)
   ・採用エントリー数を年間◯件→◯件に(媒体費◯万円の削減に相当)
   ・自社更新への移行により、年間の更新委託費◯万円を削減
   ※デザイン刷新は手段であり目的ではない

3. 実施範囲(やること/やらないこと)
   【やること】全◯ページの再設計・デザイン刷新/CMS導入(自社更新)/
             問い合わせフォーム改修/スマートフォン最適化/初期SEO設定
   【やらないこと】採用管理システムとの連携(次期)/英語版(次期)/
             ECカート機能(本件の対象外)

4. 費用
   初期費用 ◯◯◯万円(内訳:要件定義◯万/設計・デザイン◯万/
   実装◯万/CMS構築◯万/原稿・撮影◯万/テスト・公開作業◯万)
   運用費用 月額◯万円(保守・サーバー・ドメイン)
   相見積もり:A社◯万円/B社◯万円/C社◯万円(別紙)

5. スケジュール
   ◯月 制作会社決定 → ◯月 要件定義 → ◯月 デザイン確定 →
   ◯月 実装・原稿確定 → ◯月 テスト → ◯月◯日 公開
   ※公開希望日から逆算。原稿と写真の社内準備に◯週間を見込む

6. 効果測定(公開後の判断基準)
   公開6か月後に以下を報告する。
   ・採用エントリー数(目標◯件/月)
   ・問い合わせ件数(目標◯件/月)
   ・自社更新の実施回数(目標◯件/月)
   目標未達の場合は◯月時点で改善施策を再提案する

持ち帰り: 6項目のうち 3(やらないこと)と6(効果測定) が抜けている稟議書がほとんどです。この2つを足すだけで差し戻し率は下がります。理由は次の見出しで説明します。

悪い例 → 良い例:同じ案件の稟議書を書き換える

「デザインが古い」は決裁者の言葉ではありません。同じ案件を、実際に書き換えてみます。

悪い例(目的欄)

> ホームページが古くなっており、他社と比較して見劣りするため、デザインを一新し、企業イメージの向上を図りたい。またスマートフォン対応を行い、ユーザビリティを改善する。

読んだ決裁者は「で、いくらの効果があるの?」としか思えません。企業イメージもユーザビリティも、金額と紐づいていないからです。

良い例(目的欄)

> 現サイトはスマートフォン非対応で、流入の68%を占めるモバイル利用者の直帰率が81%に達している(2026年◯月〜◯月・Google Analytics実測)。採用ページへの到達が月◯件にとどまり、求人媒体費 年間◯万円に対して自社サイト経由の応募は◯件。
> 本件では採用導線の再設計とモバイル最適化を行い、公開6か月後に自社サイト経由の応募を月◯件(現状の◯倍)とすることを目標とする。達成時、媒体掲載枠を1枠削減でき年間◯万円の削減見込み。

違いは3つだけです。①現象ではなく数字 ②目的が金額に翻訳されている ③達成/未達を判定できる。デザイン刷新の話は一言も要りません(やらないという意味ではなく、稟議書に書く理由がないということです)。

悪い例(費用欄)

> リニューアル費用 3,000,000円(税別)

良い例(費用欄)

> 初期費用 3,000,000円(税別)
> 内訳:要件定義40万/設計・デザイン90万/実装80万/CMS構築50万/原稿・撮影30万/テスト・公開10万
> このうち原稿・撮影30万は、社内で素材を用意できれば削減可能(その場合は社内工数として◯人日を見込む)

持ち帰り: 内訳を書くと「削れる場所」が可視化され、決裁者は全否定ではなく減額修正で承認できます。総額1行の稟議書は、決裁者に「承認」か「差し戻し」の二択しか与えていません。制作会社に見積を依頼するとき、「内訳が分かれた見積書でください」と最初に伝えてください。総額しか出さない会社もあります。

費用の妥当性は「相見積もり」だけでは示せない

相見積もりは必要ですが、それだけでは妥当性の証明になりません。範囲が揃っていない3社の見積を並べても、安い1社が選ばれるだけです。

参考として、外部の発注データでは、ホームページリニューアルの費用は平均138.2万円・中央値88.6万円と報告されています(ランサーズ「ホームページリニューアルの費用相場」)。ただしこれは全国・全業種の発注実績の集計で、ページ数や機能要件が揃った比較ではありません。この数字を「うちも88.6万円でできるはず」の根拠に使うと、要件が入らずに作り直しになります。相場データは稟議書に載せる際、必ず「自社要件との差」を1行添えてください。

範囲を揃える最短の方法は、先にこちらから条件を書いて出すことです。最低限、次の6つを揃えて各社に渡せば、見積は比較可能になります。

揃える条件 書き方の例
ページ数と階層 トップ+下層◯ページ(うち採用◯ページ)。現サイトのサイトマップを添付
CMSの要否 社内で更新したいページ:お知らせ・実績・採用の3種
素材の支給範囲 写真は既存素材を流用/撮影が必要なのは代表・オフィスの2点
外部連携 予約・決済・採用管理システムとの連携は本件対象外
移管の有無 サーバー・ドメインは現行を継続(移管なし)
保守範囲 公開後の月次更新代行を含むか/含まないか

持ち帰り: この6項目を書いた紙をRFP(提案依頼書)と呼びます。立派な様式は要りません。A4で1枚あれば、見積の比較可能性は十分に上がります。逆にこれを渡さずに「一式でお見積りください」と言うと、各社が別々の前提で見積を作り、最も安い=最も範囲の狭い見積が選ばれます。

制作会社に「たたき台」を出させて、当事者を増やす

稟議は、書いた人が1人で通すものではなく、賛成者の数で通ります。ここは制作会社を使ってください。

当社では、決裁者が別にいる案件・複数部門にまたがる案件では、ヒアリングを意図的に2回に分けています(2026-08-03に社内で運用として定義)。

第1回 第2回
目的 見積を出せる状態にする 提案を「自分たちの案」として受け取ってもらう
こちらの動き 聞く たたき台を見せて、直してもらう
中身 範囲・機能・素材・移管・保守・予算・時期・決裁フロー 構成案/トップの見せ方/キーメッセージ/デザイン方向2案
同席者 窓口1名でよい 決裁に関わる方・現場の方に入っていただく

第2回の目的は情報収集ではありません。発言した人は味方になるという一点です。第2回で出た言葉を提案書にそのまま引用すると、提案は「制作会社の売り込み」ではなく「一緒に作った案」になり、窓口の方が上申するときの言葉が窓口自身の言葉になります。

持ち帰り: 制作会社に見積を依頼するとき、こう伝えてください。「お見積りの前に一度、ラフでいいので構成案を見せてください。社内の関係者にも同席してもらいます」。白紙で「ご要望をお聞かせください」としか言わない会社は、この段階で分かります。

スケジュールは公開日から逆算する(年度・周年の落とし穴)

リニューアルが遅れる最大の原因は制作側ではなく、原稿と写真です。設計・デザイン・実装は見積時に工数が読めますが、社内で用意する原稿と写真だけは読めません。

逆算の目安(当社の一般的な進行):

  • 公開日 ←(2週間)← テスト・修正 ←(4〜6週間)← 実装 ←(3〜4週間)← デザイン確定 ←(2〜3週間)← 要件定義・構成確定 ←(見積・社内稟議)

つまり要件が固まってから公開まで、最短でも3か月前後を見ておく必要があります。ここに稟議の期間が乗ります。「4月1日の新年度に合わせて」であれば、逆算すると年内には稟議を出しておく必要があるという話になります。

持ち帰り: 稟議書のスケジュール欄には、制作工程だけでなく「社内で用意するもの」と「その期限」を書いてください(例:各部署からの原稿提出 ◯月◯日)。これを書くと、稟議が通った時点で他部署への依頼も同時に承認されたことになります。

正直に書いておきます:当社のページも、この問いに答えていませんでした

この記事は、自社の失敗の調査から生まれました。

当社のホームページリニューアルの案内ページ(`/page/renewal.html`)は、2026年5月7日〜8月5日の90日間で、Google検索から国内822回表示され、クリックは0件でした(Google Search Console実測・国内のみで集計)。主要キーワード「ホームページリニューアル 福岡」では平均3.8位に出ていました。3〜4位に出ていて90日間クリックゼロというのは、順位の問題ではありません。

原因を調べるためにサジェストキーワード566語を確認したところ、リニューアルを検討している方が実際に調べていたのは次のような言葉でした。

> 費用相場 / 進め方 / 手順 / 提案書 / 稟議書 / 要件定義 / RFP / 補助金 / タイミング

当社のページはこのどれにも答えていませんでした。書いてあったのは「リニューアルの重要性」と「成功事例」です。発注を検討している方が社内で戦うために必要な材料を、制作会社である当社が一切用意していなかったということです。

この記事が最初の1本です。以降、費用の内訳・進め方・要件定義の順で公開していきます。

この記事の限界も書いておきます。

  • 上記の稟議書テンプレートは、当社が実際の案件で使っている型を一般化したものです。貴社の稟議様式に合わせた読み替えが必要で、そのまま提出できる保証はありません。
  • 引用した費用相場(平均138.2万円・中央値88.6万円)は外部データで、当社の実績値ではありません。当社の案件レンジとは一致しません。
  • 「クリック0」の実測値には、順位計測ツール等の自動アクセスが一部含まれている可能性があります。国外分と、モバイル比率が極端に低いクエリは除外して集計していますが、完全な分離はできていません。

よくある質問

稟議書と提案依頼書(RFP)と要件定義書は何が違いますか?

提出先が違います。稟議書は社内の決裁者に「予算を使う許可」をもらう書類、RFP は制作会社に「同じ条件で見積を出してもらう」ための書類、要件定義書は発注先が決まった後に「何を作るか」を確定させる書類です。順番は RFP →(見積取得)→ 稟議書 → 要件定義書 になることが多く、稟議書に見積を添付する必要があるためです。

相見積もりは何社取るべきですか?

3社が目安ですが、社数より条件を揃えることが重要です。同じ条件書(本文の6項目)を渡していない相見積もりは、最も範囲の狭い見積が最安に見えるだけで、比較になりません。

リニューアル費用に使える補助金はありますか?

時期と自治体・国の制度によって変わるため、この記事では断定しません。申請から交付決定まで数か月かかる制度が多く、交付決定前に契約すると対象外になる制度がある点だけ先に確認してください。スケジュール逆算に直接影響します。

決裁者に「今のサイトで困っていない」と言われたらどうすればいいですか?

「困っていない」ことの多くは「測っていない」ことです。まず現状の数値(モバイル比率・直帰率・問い合わせ到達率)を出してください。数値が取れない場合は、計測が入っていないこと自体を課題として書けます。